選択的夫婦別姓について

 結婚によって名字が変わると、『自分らしさ(アイデンティティ)が失われる』 『日常生活や仕事に支障が出る』など、さまざまな不利益があるため、長年にわたり多くの人々が制度の見直しを求めてきました。私自身も、その不利益や苦しさを実際に経験した一人です。

 現在の民法第750条では、「夫または妻の氏を称する」と定められており、日本では夫婦が同じ名字を名乗ることが義務づけられています。形式上は夫・妻どちらの名字でもよいことになっていますが、実際には約95%の女性が名字を変更しており(2023年内閣府調査)、負担や不利益が女性に偏っているのが現状です。

 また、法務省の2010年の調査によれば、世界で結婚時に夫婦同姓を法律で義務づけている国は日本だけです。さらに、歴史的に見ても、夫婦同姓は日本の伝統とは言えません。さまざまな世論調査でも、国民の過半数が選択的夫婦別姓に賛成しており、今こそ課題を整理し、制度の導入に向けて進めていくべき時だと考えます。

※意見書の内容は下記のとおりです。

『選択的夫婦別姓制度の法制化に慎重な対応を求める意見書』

 家族は社会の基盤である。家族が同じ姓を名のる夫婦同姓制度は、家族の絆や一体感の維持、子どもの福祉に資するものがあり、地域社会の維持にとって極めて重要である。平成27年、同制度を規定した民法第750条について最高裁判所は「家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。そして、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性がある」ことから合憲と判断している。
 このところ、選択的夫婦別姓制度の法制化をめぐる議論が見られるが、夫婦別姓を法制化すれば、家族の絆や一体感を危うくしてしまうおそれがあるばかりか、親子や兄弟姉妹間で異なる氏・姓を名のることにつながりかねず、子どもの福祉にとっても将来にわたり影響を及ぼすことが懸念されている。選択制だからよいとの意見もあるが、社会の構成要素である家族の呼称としての姓の意義そのものも失われることになりかねない。制度設計についても曖昧な部分がある。特に、子どもの姓については各種調査でも反対意見が多く、十分な議論が尽くされたとは言い難い。
 すなわち、選択的夫婦別姓制度は家族観と個人の価値観に深く関わる重要な問題で、国民の間でも意見が分かれている状況であり、結論を出すに至るには、より丁寧な国民的議論と合意形成が必要と考える。
 よって、国及び国会におかれては、国民の幅広い意見を十分に聞き慎重に対応するよう求める。
    記
1 選択的夫婦別姓制度の法制化に慎重な対応を求める

『選択的夫婦別姓の導入など、一日も早い民法改正を求める意見書』

 現行の民法では夫婦別姓での婚姻が認められないため、望まぬ改姓、事実婚、通称使用などによる不利益、不都合を強いられている。婚姻の際、実際には96%が夫の姓になっているのは間接的な女性差別であり、夫婦同姓の強制は、両性の平等と基本的人権を掲げた憲法に違反する。別姓を望む人に、その選択を認める選択的夫婦別氏制度、いわゆる選択的夫婦別姓制度の導入を求める声はますます切実である。女性のみに適用される再婚禁止期間の廃止も緊急の課題である。

 国連の女性差別撤廃委員会を初めとする国際機関は、日本政府に対し民法の差別的規定の廃止を繰り返し勧告している。法制審議会は、1996年に選択的夫婦別姓の導入などを含む民法の一部を改正する法律案要綱を答申しているが、20年以上もたなざらしのままである。

 2015年12月、最高裁判所は「夫婦同姓の強制は合憲」という不当な判断を示したが、2016年3月、女性差別撤廃委員会は、最高裁判断にかかわらず、現行民法の規定は差別的であるとして、改めて早急な是正を勧告している。最高裁判断後も、別姓制度を求める男性が提訴、世論調査でも賛成が反対を上回っている。最高裁は、制度の在り方については国民の判断、国会に委ねるべきだと強調しており、一日も早い国会の対応が求められる。

 よって、国におかれては、下記事項について取り組むことを強く要望する。

   記

1 選択的夫婦別姓の導入など、直ちに民法を改正すること。